溺愛レンズ
ただ呆然と立ち尽くす私と、そして彼。
何だかこの先どうしたら良いのかわからず、ただただ黙って立っていると
そんな微妙な空気を打ち壊すかのようにピリリリリッと大きな音が辺り一面に響き渡った。
その音はあきらかに携帯の音で、だけどマナーモードにしている私の携帯の音なはずはなく、ふと彼を見上げるとパンツ後ろのポケットから携帯を取り出しているところだった。
だけど彼は画面を確認するだけで、未だに鳴り続けている電話にでるそぶりなんて一ミリも見せることはなく「はぁ」と小さな溜め息を一つ吐くだけ。
どうしたんだろう…何かあったのかな…
それにしてもこの人…何か何処かで見た事がある気がするんだよね…
でもこんなにカッコイイ人一度見たら忘れるわけないか…気のせいか…
「写真、好きなのか?」
「えっ」
少しトリップしていた私を、引き戻すかのように低く心地の良い声が耳の奥に届く。
そして私の胸元にあるカメラに視線を向けながら聞いてくる彼。
「昨日も持ってただろ」
持ってたどころか…あなたを盗撮しちゃいましたけどね…
「はい、好きです…」
何故…こんな事を聞いてくるの…
「お前さ」
「…………」
「何で昨日、俺の事撮った」
「……えっ」