溺愛レンズ
そうカメラを握り締めながら呟き、もう一度ゆっくりと彼を見上げると
彼はどこか驚いたように少し目を見開いて、私と視線が絡まり合うと同時に元の表情へと戻した。
カッコよくて、イケメンで一見芯が通って見えるのに…
何にどこか悲しそうで寂しそうで
多分…その危うい雰囲気に私は魅せられた。だから目が離せなかったんだと思う…
「それより私たち、前に何処かでお会いした事ありますか?」
質問してきたくせに黙ったままの彼に問うと、次は「は?」とでも言いたげに眉間にシワを作った瞬間
「クックック」とまるで喉を鳴らすように、いきなり笑い出した。
え?何?何なの!?
「お前、面白れェ」
面白い?果たして今の話の流れに面白い要素が入ってたとは思えないけど、だけど目の前のこの人があまりに可笑しそうに笑うもんだから、きっと私は変な事をいったんだと思う。
そんな彼はパンツのポケットに手を突っ込みながら「昨日会っただろ」と言うと、私の横を通り過ぎて階段を降りて行く。
あぁ、そっか…昨日会ったからなんだか見た事があるって勘違いしたのか。
「お前、いつもここにいんの?」
三段ほど階段を降りたところで彼はこっちを振り返ってきて、丁寧にセットされた栗色の短めの髪が太陽に反射して綺麗だと思った。
「あ、はい。2日に一度くらいは」
「そ」
「そ」って…聞いてきといてその返事って…
しかも何でそんな事聞いてきたの?
「またな」
「え、あ…はい…ファイルありがとうございました」
何だかこの状況に付いていけず、ただ高台の上から爽快に去って行く彼の背中を見送った。