溺愛レンズ



「有馬(アリマ)」




有馬…




彼はそれだけを答えると、一瞬だけこちらを見てまた町並みを見つめる。





3回目…三度目に会って初めて知ったこの人の名前は、聞いたこともない珍しい名前で




なんだかやけに私の耳に残った。





「あの…いつも何を見てるんですか?」





ゆっくりと彼の座る木陰に近づき、その隣へと立たずむ。





ザァーっと少し強い風が木々を揺らして、そして優しくスカートをがふわりと舞う。





「別に、何も」





何も…?

そうだったんだ、てっきり何か意味ありげに見ているものだと思ってた私は…その言葉に少なからずガッカリした。




「けど、ここは心地良い」




だけど、この言葉を聞いた時強く共感出来た私こそ…ここへ来てる事への意味なんて持っていない。






そう、ここは心地が良い。

まるで世界から切り離された小さな空間みたいで。





< 29 / 50 >

この作品をシェア

pagetop