溺愛レンズ
「有馬(アリマ)」
有馬…
彼はそれだけを答えると、一瞬だけこちらを見てまた町並みを見つめる。
3回目…三度目に会って初めて知ったこの人の名前は、聞いたこともない珍しい名前で
なんだかやけに私の耳に残った。
「あの…いつも何を見てるんですか?」
ゆっくりと彼の座る木陰に近づき、その隣へと立たずむ。
ザァーっと少し強い風が木々を揺らして、そして優しくスカートをがふわりと舞う。
「別に、何も」
何も…?
そうだったんだ、てっきり何か意味ありげに見ているものだと思ってた私は…その言葉に少なからずガッカリした。
「けど、ここは心地良い」
だけど、この言葉を聞いた時強く共感出来た私こそ…ここへ来てる事への意味なんて持っていない。
そう、ここは心地が良い。
まるで世界から切り離された小さな空間みたいで。