溺愛レンズ
夕日が濃くなってきた時間
「レイ!急いで!こっちこっち」
アキラちゃん率いるクラスメイト5人で、食後の先生達の職員会議のすきにキャンプ場を抜け出す。
「あ!ここじゃない?ロケバスとかあるよ」
一番先頭にいた女の子がこっちに振り向きながらコソっと小声で後ろの私達に話しかける。
「本当だ!カナデよ!カナデを探して」
それに対し、アキラちゃんがやっぱり目をキラキラさせながらそう声を出した。
えーっと、カナデ カナデ カナデ
ん?ていうかカナデってどんな顔だったっけ?
5人で林の木陰に隠れながらキョロキョロと四方八方を見渡すけれど、そこに芸能人らしきオーラのある人は見つからず、いるのは数人のスタッフの人のみ。
ここじゃなくて何処かに移動でもしてるのかな…?
「君達!こんな所で何をしてるんだ!!」
後ろから聞こえてきた言葉。
それは大人の男の人のモノで…その声にゆっくりと後ろえと振り返った。
「ヤバイ!逃げて!!」
それと同時にアキラちゃんの大きな声が森林に響き渡り、周りの女の子達の「急げー!!」なんて声とバタバタと走り回る足音が聞こえてくる。
だけど私は「ヤバっ!!」と思った時には手遅れで、まるでスローモーションかのように目の前の男の人が私の腕を引く。
「こら!君!!一体こんな所で何してるの!!」
あぁ、こりゃあ捕まった。
完全に捕まった。
というか私だけ捕まった。
何皆んなのあの逃げ足の速さ、私なんか思わず唖然としちゃってたら捕まったし…
どうしよう。もう学年主任に怒られるの決定だ。
「何?噂でも聞いて見に来たの?困るんだよね、そういう事されるの」
テレビ局のスタッフの人だろうか、スーツを着たその人は私をズンと上から見下ろしてくる。
「えっと…あの…えっと…」
一体何て言ったら良いの?逃げる方法はないの?ごまかせる何かはないの?
「答えられないの?何処かの学校の生徒でしょ」
しどろもどろする私にシビレを切らしたのか、呆れたように言ってくる男の人を思わず見上げた時だった。
「谷さん、その子俺の知り合い」
いきなり聞こえてきた聞いたことのある声。
だけどその声の持ち主がこんな場所にいるわけがない。だって……
「カナデ。お前の知り合い?本当かそれ」
私からは見えないその先を見ながら男の人はキョトンとしてみせる。
「そう、だから離して」
男の人に掴まれていた腕が、隣から勢いよくグイっと引かれ…そして身体が揺らめく。
さっき聞こえてきた声、それは何度か確かに聞いたことのある有馬さんの声だった。
でも、この目の前の男の人は確かにさっきカナデと言った。
聞き間違いか…?
いや、聞き間違いじゃない。
だけど、強く引かれた私の腕は次の瞬間には優しく受け止められ
「お前、マジで何してんの」
やっぱり…振り向いた先
そこにいたのは、呆れた顔をした有馬さんだった。