好きだと言って。[短篇]
好きだと言って。
AKEMI
「…キスして。」
私がそう呟くと、貴方はいつも甘いキスを私に落とす。気持ちの篭っていない、甘い、甘いKISSを。
「ふ…んっ…」
息ができないほど激しい甘いキスが、私の唇に落とされる。私はそれにどうにかついていこうと必死で彼の背中に手を回す。
触れた肌が暖かくて、
触れた唇が暖かくて、
もっと彼を求めてしまう。
「てっ…ぺ」
それでも息が続かなくて、
結局唇を離していしまうのはいつも私から。
「…馬鹿みてぇ」
そして貴方はいつも冷たい瞳で私を見下ろし、すぐに手の届かない遠くへ行ってしまう。…っていっても、隣の部屋なんだけど。
「…。」
橋上哲平。
私の思い人。
4つ年上で、普通のサラリーマン。
性格は…
どうなんだろう。
不明。
「…哲平?帰るね。」
「…。」
返事がないのなんていつものこと。ドア越しに寝息が聞こえるのを確認して私は静かにドアを閉める。
好きなのに、
好きなのに、
貴方は私を見てはくれない。
ただ、
甘いキスをくれるだけ。
「…そろそろ、かな。」
私は手に持っていた鞄を握り締め、家へと帰った。