好きだと言って。[短篇]
「…朱実が、好きだ。」
「う…そ。」
嘘だ。
そんな嘘、いらないって言ったのに。
ぐっと唇を噛み締める。
「いつも冷たかった、いつも寂しかった。哲平は、私のことなんて全然見てなかった。…辛かったんだよ?」
「…見てなかったんじゃなくて見れなかったんだけど。…緊張しすぎて。」
え…
緊張…?
ゆっくりと立ち上がり、
私の方へと再度足を向ける哲平。
「どう接していいか分からなくて、修輔とかいう男に勝手に嫉妬して?…最後には好きな女に逃げられて、こんなみっともない俺、自分でも初めて見た。」
いつも全然口を開かない哲平が、
次々と言葉を紡ぐ。
「…っ」
しゅ、修輔って…お兄ちゃん?
電話に表示された文字を見て、固まっていたのはそのせい?
妬いてくれてたの?
「こんな、みっともない姿曝け出してでもお前のこと…諦められないんだけど。」
そう言って、
回された手は私をしっかりと捕まえた。
「き、キスしかしてくれなかった…っ」
「…出来るかよ、こうやって触れるだけでも心臓壊れそうなのに。」
そう言って私の手を自分の胸へと運ぶ。
あ…
私と同じ?
「バイバイとか、言うなし。」
「…哲平」
「頼むから、朱実。」