好きだと言って。[短篇]
「…朱実、まだあの馬鹿男と会ってるの?」
「うっ…」
「いい加減にしたら?…付き合ってもないのにキスするとか、朱実らしくないんじゃない?」
「そ、うかな?」
そう。
私達は彼氏彼女じゃない。
ただの友達、またはそれ以下。
「ねぇ、朱実。」
「うん…、そうだよね、おかしいよね。」
私は哲平が大好きだけど、哲平はそうではない。ただの暇つぶしとしか思っていないだろう。あの冷たい瞳がそれを物語っている。
一方通行の恋心。
こういうことを言うんだろう。
哲平と知り合ったのは、ちょっとした合コン。大人っぽい雰囲気の彼に惹かれて、隣に座った時なんか胸がドキドキして壊れるんじゃないかって思ったくらい。
緊張で上手く話せなくて、
話題を出せなくて、
そんな私に無言で付き合ってくれた。
「抜けね?」
そんなとき、不意に言われたその一言に私の頬は真っ赤に染まった。そして「…はい」って頷いてしまったんだ。
「ここ、俺ん家。」
そう言われて案内された高級感溢れるマンション。びっくりしたのは高そうなマンションだったからってのもあるけど、
一番は、
「わ、私の家、すぐ近くなんです。」
「へー…。」
そう。
そのマンションがご近所さんだったってこと。
哲平はそのときから、私に興味なんてこれっぽっちもなかったのにね。私は舞い上がっていて気が付かなかったんだ。