好きだと言って。[短篇]
案内されたリビング。
私は大人しくソファーに腰を下ろす。初めて入る男の人の部屋に、なんだか凄くドキドキしていたのを今でも覚えてる。
ねぇ、哲平はなんで私を誘ったのかな?
ただの暇つぶし?
…そうだよね。
「朱実。」
ソワソワしている私に掛けられた貴方の声。少し低くて、太い声で私の名前を呼ばれ、下を向いていた顔を上に向けた。
「!…んっ」
急に塞がれた唇に、
頭が真っ白になった。
絡む下に意識が遠のきそうになった。
…な、何で…
「ふ…んっ…」
激しいキスに、
私は声を上げる。
「…な、…けど。」
微かに聞こえた哲平の声。でも、それを理解するほどの思考力を私は失いかけていたのだ。
ねぇ、今なんて言ったの?
それが始まりだった。
哲平との微妙な関係が幕を開けたのは。
「今日、家来いよ。」
「…ん。」
呼び出すのはいつも哲平。
駆けつけるのはいつも私。
セキュリティーの高いマンションの入り口を抜けるのも、もうドキドキしなくなった。1人でエレベーターに乗るのも馴れた。