protect you〜守るべきもの〜
自分の頬をつたう温かいものに気づき、手で拭う。
殴られた時の血かと思ったが、違った。
透明で、水のようなもの。
...涙?
「っ...泣いてんじゃねぇよ、歩!!」
バシッと、銀髪に頭を殴られた。
でもそんなことはどうでも良く、俺は自分の涙で濡れた手を見つめて呆然としていた。
泣く予定なんか無かった。
何が起こっても、泣かない自信はあった。
泣くのなんて……あの日、以来だ。
「嘘だろ...?俺、泣いてんのかよ...」
こんな...
このくらいの状況で、泣いちまうのか?
そんなに俺は、弱かったか...?
少しは強くなったと思ったのに。
そう思うとまた悔しさが込み上げてきて、これ以上弱さを見せまいと歯を食いしばった。
「泣いてなんかっ......いねぇよ!!
俺はもう、昔の弱い俺じゃねぇんだ!!」
自分に言い聞かせるくらいの大声で言うと、少し離れたところにいた榊が口を開いた。
「...なら、泣けばいいじゃん」
……は?
拗ねたような榊の口調に、思わず眉をひそめた。
泣けばいいじゃんって何だよ…。
「歩は強くなったんでしょ?1人で生きられるくらいに。なら泣けば?
だって、『1人』なんだから」
「...はぁ...?」
「本当に『1人』なら、誰も歩のことなんか見ないもん。だから思いっきり大声で泣き叫べばいいじゃん」