それだけが、たったひとつの願い
 だけどあきらかに特別な感情が芽生え始めていると自分でも気づいていた。
 そばにいて、少しでも一緒に過ごしたくて仕方ない。
 由依はつつましやかで、料理が上手で、俺が仕事で知り合うモデルの女性たちとはなにもかも正反対だった。

 由依の作る正月の雑煮が俺を一気に陥落させ、これが惚れるという感情だと自覚してしまった。
 そうでなければこの胸の中を乱高下する気持ちの説明がつかない。

 俺は日本が好きだ。このままずっと日本で自由に暮らそうか。
 由依とふたりで平凡に笑って暮らせるのなら、ほかには何も望まない。

 けれどそれではショウくんに悪いという罪悪感が同時に押し寄せてくる。
 この十二年間、薫平やおばさんのこと以外では一度もそんな気持ちにはならなかったのに。

 ショウくんと由依で、万が一どちらかを選ばなければならなくなったらどちらを選ぶのか、俺はこのとき無意識に気づいていた。

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