それだけが、たったひとつの願い
 芸能人をやめるのはなかなか簡単ではない気がする。
 ジンは台湾の週刊誌であれだけ騒がれる人なのだから、それだけジンを応援し、期待する人も多いはず。
 第一、やめるだなんてショウさんが首を縦に振るわけがない。

「由依、お前は俺が守る」

 それでも、彼が真剣な瞳で紡いだその言葉が心に響いて本当にうれしかった。


 私がショウさんから呼び出しがあったのは、その翌日のことだ。
 場所はポラリス・プロの近くにある落ち着いたカフェで、指定された時間に行くとすでにショウさんが待っていた。

「お待たせしてしまってすみません」

「いや、こっちこそ呼び出して悪い」

 つぶやくように言ったショウさんの顔を、思わず見入ってしまいそうになった。
 久しぶりに会ったけれど、目の下にわかりやすいほどはっきりとクマができていたからだ。

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