それだけが、たったひとつの願い
 仕事で疲れているのもあるけれど、ジンが記者と喧嘩をしたと言っていたのをふと思い出し、その件で対応に追われて寝不足が続いているのではと想像がついた。

「顔色が悪いですけど、お体大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないね。胃に穴が開きそうだ。だからほら、今もコーヒーじゃなくて紅茶」

 最初に笑顔を少しだけ見せてくれたから冗談で大げさな言葉なのかと思ったけれど、ショウさんは実際に紅茶を口にしていたし、「本当は水だけでもいいくらいだ」とつぶやく姿を目にすると、私は愛想笑いさえできなくなった。

「ジンに邪魔をされたくなかったから事務所じゃなくてここに呼んだ。用件は、脚本のドラマ化の件」

「あ、はい」

 ショウさんは組んでいた脚を下ろし、少し伸びた黒髪をおもむろに掻き上げた。
 こうして改めて見るとショウさんもなかなかのイケメンだけれど、その整った顔が少しばかり歪む。

 要するにドラマ化の話はなくなった、という事だろう。申し訳なさそうにするショウさんに、私は小さく首を振って大丈夫だと意思表示した。

< 170 / 281 >

この作品をシェア

pagetop