それだけが、たったひとつの願い
「せっかくのオファーなのに出るのは嫌だと。長編だと日本に来られなくなるとか、由依の脚本でないとダメだと言ったはずだとか、ワガママばっかり」

 私から視線を外し、ガラステーブルを人差し指でコツコツと無意識に叩く様子がショウさんの苛立ちを表していた。

「アイツは本当になんにもわかってない。これは喉から手が出るほどのチャンスなのに」

 昨日のジンの『芸能の仕事はやめてもいい』という言葉が脳裏をよぎった。

 もしかしてそれをショウさんにも言ってしまったのではないかと懸念したけれど、どうやらそれはまだ告げていないみたい。
 単に今回舞い込んだ仕事が嫌だと拒否しているだけのようだ。

 今がチャンスだと意気込むショウさんと、やる気をなくしているように思えるジンとでは、第三者である私から見ても確実に温度差がある。

「このチャンスを掴むどころか、記者と口論なんかするし」

「昨日ジンからそれはちょっとだけ聞きました」

「そのことでまた週刊誌の紙面を騒がせてる。第二弾だ」

 対応に追われる身にもなれ、と言わんばかりにショウさんは再び盛大な溜め息を吐きだした。
 マスコミへの対応と、ジン本人への説得の両方で疲れてしまっているようだ。

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