それだけが、たったひとつの願い
「いいんだ。由依の居場所がわかったし、元気で生きててくれた。それだけでもう十分だ」

 静かなトーンで怒ることのない俺を不思議に思ったのか、ゆっくりと頭を上げた甲くんがなんとも言えない悲しげな視線を寄こす。

「由依ちゃんに今の会社を紹介したのはたしかに俺だよ。だけどそれは、偶然またふたりが出会えないかなって心のどこかで期待したからだ」

「なんだよ、それ」

「いろいろ不運が重なって離れたふたりだけど……気持ちはまだ残ってるだろ?」

 なぜ今さらはっきりと俺の気持ちを暴くようなことを言うのかわからず、俺は戸惑って甲くんから目を逸らせた。

「今でも由依が好きで手に入れたいと思う。だけどその願いは叶わない」

 四年前のあのころのまま、俺の気持ちはちっとも変わっていないけれど、そのたったひとつの願いが叶わないのはもう知っている。

 それが運命なら受け入れるしかないのだと思う。
 これからも俺は自我を捨てて生きていく。

 今現在由依が幸せなら、それを見守るしかない。

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