それだけが、たったひとつの願い
 私に来客などあるはずがないから、誰なのかまったく想像がつかない。
 あるとしたら甲さんくらいだけれど、上森さんの口調からするとそうではないようだった。

 ほら、と上森さんに促された出入り口の方角を見ると、背の高い男性が壁に寄りかかっているのに気づいた。
 少し長めの漆黒の髪をしたスーツ姿の男性が腕組みをしながらこちらを見ている。
 私はあわてて荷物をまとめ、その男性へと歩み寄った。

「ショウさん……」

「ちょっといいか? 話がある」

 ロケでの失態を謝ろうとして頭を下げかけた瞬間にそう言われ、ふたりで会社をあとにした。
 もうすぐ初夏を迎える夕方の空は、まだ日が沈む気配はなくオレンジ色だ。
 どこに行くのかわからずにショウさんのあとをついていくと、連れて来られたのは近くにあるパーキングだった。

「あ、あの……」

「今日車で来たから。とりあえず乗れ」

 有無を言わせない感じがあのころのままでなんだか懐かしい。
 私は助手席の扉を開け、失礼しますと言いながらそこへ乗り込んだ。

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