それだけが、たったひとつの願い
「日本から戻ったらまた会って?」

 大きな瞳で俺をうるうると見つめてくるが、ベッドに寝そべっているせいか昔の清純な面影は皆無だ。
 俺はシャツを羽織り、ボタンを留めながら作り笑いで微笑んだ。

「俺の弟を今後は狙わないと約束するならね」

「もちろんよ。そんなことしないわ」

 従順でよろしい、と俺は彼女の頭を義務的にふわりと撫でた。
 なんだか面倒なことになりそうだな……などと、ホテルを出てからふと思う。

 一夜限り、もしくは何回かの逢瀬のあと自然消滅するつもりだが、彼女は俺が思っているよりしつこいかもしれない。
 そんな嫌な予感が頭をよぎり、真夜中の台北の街で盛大な溜め息を吐きだした。

 だけどこれで彼女がジンにちょっかいを出すことはないだろう。
 だいたい、事の発端はそれなのだ。

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