それだけが、たったひとつの願い
「リクルートスーツ……今日、面接だったのか?」

 スタッフルームのロッカーの前でマフラーをはずし、乱れたセミロングの髪を手櫛でまとめ直す私に武田(たけだ)くんが声をかけてきた。

 武田くんと私は高校の同級生で、今はお互い別々の大学に通っているけれど、奇遇にもこのバイト先で再会した。
 武田くんは昔からガッチリ体型だから、その肉体を活かすのならほかの選択肢もあっただろうに、なぜかカフェでバイトをしている。

「うん。面接、って急に言われちゃって」

「そっか。断るわけにもいかないよな」

 今日の面接は小さな電子部品メーカーの事務職の募集だった。
 急に呼び出されてしまったのだけれど、武田くんの言う通り、断る選択肢は今の私には持ち合わせていない。

「当然だよ、まだ内定ゼロだもん。どんな会社でもいいから早く就職決めないといけないしね」

 ため息を吐きながら、武田くんになんとか笑みを返した。

 私の名は安田 由依(やすだ ゆい)。年齢は二十二歳。

 大学四年の冬にして未だどこの企業からも内定をもらえていない、もはや就活難民だ。
 自分ではがんばっているつもりなのだが、ここまで面接に受からないとなると、いったいなにがダメなのかわからない。
 このままでは卒業後の春から私はどう考えても無職になる。
 なので焦っても仕方ないのかもしれないが、精神的にはどんどん追い込まれている。
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