それだけが、たったひとつの願い
 ルームウェアを身に纏い、頭からタオルをかぶって素早く髪を拭く。
 バスルームの中もそうだったけれど、脱衣所に据え付けられている鏡もひと際大きくて、それだけですごく高級感があふれている。

 ゆっくりとした足取りでリビングに戻った瞬間、驚きすぎて心臓が止まるかと思った。

「え! なんで?!」

 リビングのソファーにくつろいでいるジンの姿を目にし、思わず大きな声を出してしまった。

「いつ来たの?」

 そう尋ねてしまったけれど、私がお風呂に入っている間に違いない。

 玄関のチャイムは鳴らなかったはずだが、よく考えたらジンはこの部屋の鍵を持っているのだから、事実上出入り自由ということになる。
 私が間借りしているとはいえ、油断すれば今みたいに驚くはめになるのだ。

「さっき来た。呼んだけどいないし、シャワーの音がしたから」

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