それだけが、たったひとつの願い
「怒ってたけど、喧嘩にはなってないから大丈夫。俺たち一度も喧嘩したことはないんだ」

 一瞬どういう意味なのかわからなかったけれど、今朝のも、喧嘩ではないと言われればたしかにそうかもしれない。
 喧嘩というのは互いに自分の言い分を主張して争うことだが、今朝ショウさんは怒っていたけれど一方的で、ジンはそれをおとなしく黙って聞いているだけだった。だから、正確には“喧嘩”ではないのだ。

「ここに来てるってわかったら、またショウさんに怒られるよ」

「それは仕方ない。昨日とは違うケーキが食べられそうだし。俺、あの店のケーキもわりと気に入ってるんだ」

「……は?」

 なにが仕方ないのか。しかもそのあとの言葉も意味不明で、私は時間差で首をかしげた。

「由依、早くそれ食おう」

 ジンが意味ありげな笑みを浮かべ、私の後ろ方向を指さした。

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