それだけが、たったひとつの願い
 だけど今日より二月のほうが寒いに決まっている。
 寒いとつらいので、と店長にやんわりと断ったのだけれど、今度は時給をもっとアップするからと交渉され、結局そのバイトも受けてしまったのだ。

 時給がいいのだから仕方がない。
 できるだけ生活費が欲しい私にとっては、背に腹は代えられないから。

「へぇ、今日だけなんだ」

「その画像今すぐ消して!」

「それは無理」

 ジンの手からスマホを奪おうとしたけれど、頭の上にスマホを掲げられたら私がピョンピョン跳ねたところで背の高いジンの手元には届かない。

「からかわないでよ」

「からかってないけど、このバイトの件、由依の姉さんや社長は知ってる?」

 ジンがつぶやくように言ったそのひと言でうろたえてしまって、跳ねていた私の足が止まった。

「やっぱり知らないのか」

 私は無言でうつむいて、キュっと唇をかみしめた。

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