それだけが、たったひとつの願い
 姉が良い顔をするわけがないとわかってるから、報告はしていなかった。
 私のバイトのことについて姉は以前から口を挟んできていたのだけれど、自分が夜の世界に身を置いているせいか、同じようなバイトは私にはしてほしくないようだ。
 イベントコンパニオンなど、露出の高い格好のバイトは姉からNGが出ている。

 姉の気持ちは理解できるので、私はずっと言いつけを守っていた。
 今日のケーキ店でのバイトは、私の中ではセーフだったけれど、あのミニスカサンタ姿は私も想定外だった。姉の基準からするときっとアウトだ。

「別にお姉ちゃんに知られても構わないわよ。今日だけのバイトだったし、終わったあとだから」

 私が精一杯強がってみせると、ジンは私と視線を合わせるように顔を覗き込んできた。

「由依は姉さんに気を遣ってそうだよな。心配かけたくない、とか」

 ジンの透き通った瞳は、なにもかも見抜いていそうだった。
 今ジンが口にした言葉も核心をついている。

「もし俺が社長に言ったら、社長から姉さんに絶対伝わるだろ? そしたら終わったバイトだとしてもふたりとも心配して連絡してくるだろうな。うちの社長なんか、カネに困ってるんだったらって、自分の財布からそれなりの現金を出して……」

「やめて」

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