それだけが、たったひとつの願い
 ジンが口にした勝手な妄想は私の心を震わせるには十分だった。
 いや、ジンがもし相馬さんに話してしまったら今のは想定内の話で、妄想などとは決して言えないだろう。

「黙っててやろうか?」

 ジンの端正な顔がニヤリとゆがみ、私はその言葉に悔しさを覚えながらもコクリとうなずいた。

「その代わり俺の頼みも聞いてもらわなきゃな」

「脅すわけ?!」

「人聞き悪いな。ただの交換条件だ」

 こちらが完全に不利なのに、交換条件とはおかしな話だ。
 どんな条件を突き付けられるのだろうと思わず体に力が入るが、到底受け入れられない内容ならば拒否すればいい。私にもまだその選択の余地は残されている。

「大したことじゃないよ。俺がここに来ても、社長やほかの誰かに告げ口しないでほしいだけ」

 どうやら、お互いに告げ口はなし、ということが交換条件のようだ。

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