それだけが、たったひとつの願い
「あと、俺が今までどおりここに自由に出入りするのを承諾すること」

「……わかった」

「交渉成立」

 ジンのプライベート空間に侵入しているのは私のほうなのだから、ここからジンを追い出すのは少なからず罪悪感があった。
 だから今の提案には、素直に了承したのだ。
 そうは言っても、毎日来たり泊まったりするわけではないだろう。

「安心しろよ。年末は仕事が入ってて、明日からしばらくは来ないから」

「仕事って、台湾で?」

 私が“台湾”というワードを出したので、ジンはいささか驚きの表情を浮かべた。

「なんで知ってんの?」

「甲さんから聞いた」

「甲くんって意外とおしゃべりなんだな」

 話されたくなかったのだろうか。
 甲さんの態度や口調からして、ジンから口止めされていたとは思えないけれど、ジンにとっては知られたくなかったのかもしれない。

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