それだけが、たったひとつの願い
 高校時代、演劇部にいた友人に物語の執筆が趣味だと話したら、演劇部の舞台脚本を書いてほしいと依頼されたのだ。

 そんなきっかけから始まってもう数年が経つけれど、私が高校を卒業した今も演劇部の後輩から脚本を頼まれて年に数回は書いて渡している。
 自分の脚本の舞台を観に行くのも楽しみだし、執筆は今ではお金のかかならい一番の趣味だ。

「この、まぬけなキャラがいい味出してるよ」

 昔書いたその脚本は窃盗団の話で、ひとりの仲間のドジな行動によって事前の計画がうまくいかず、予定変更が余儀なくされるという、そんなドタバタストーリーだ。

 次回の脚本の参考にするために昔書いたものを引っ張り出したのはいいけれど、トートバッグに入れたままだったと気づいて、今朝ひとりになってからパラパラとそれを見返していたのだ。
 まさかそれを、ジンに見つかるとは思ってもみなかった。

「勝手に見ないでよ」

 むぅ、っと口を尖らせると、ジンはあははと爽やかに笑った。
 彼がここに来ることはもうないと思い込んでいたから、かなり油断していたのだ。
 机の上の目立つところに放置して出かけたのがまずかった。
 これからは、ジンがいつ出入りしてもいいように、大事なものや見られたくないものはきちんと鍵付きの引き出しにしまって管理するとしよう。

「紅茶淹れたから。ケーキもどうぞ」

 あんなにケーキを食べたそうにしていたのに、今は私が書いた脚本をジンは珍しそうに見入っている。
 そんな横顔さえ、美術品のように綺麗だと見惚れてしまった。

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