政略結婚に隠された真実
「ねぇ、愛梨はどうして僕の事を聞いてこないの?」
「え?どういうことですか?」
「婚約者の僕に興味はない?」
「興味がないというわけではないですけど。」
「なら、どうして気になることとか、聞きたいことを聞かないの?」
「う~ん、気にはなるけど、必要ない?かな」
「・・・必要ない?どうして」

碓氷さん、なんか怖いんですけど。
さっきまでほんわか雰囲気だったのに、いきなりピリピリモード。
私、なんか悪い事言ったかな?
どうしよう・・・

「必要ないというか、そういうのは先入観になると思うんですけど。」
「先入観・・・」
「私はよく前情報だけで判断されて・・・。私本人なんて見てくれる人なんて一握りぐらいです」
「前情報・・・?」
「そうです。社長の娘と言うだけで、私の上辺しか見てないし。私に取り入って甘い蜜を吸おうとしている人ばっかり。私自身、先入観を持たれて嫌な思いをいっぱいしたんです。だから他の人にもそういう思いをしてほしくないから、自分も聞かない様にしているんです。」

愛梨は眉を下げて困った顔で微笑んだ。

そんな愛梨を見て、大翔は言葉に詰まった。
泣きそうな顔をして、無理やり笑ったような顔。本当に嫌な思いをしたんだろう。

「愛梨は優しいね」
「そんなんじゃないです。自分がされて嫌なことは人にはするなって両親に小さい時からいわれてるんです。」
「そうなんだ・・・。じゃぁ、聞きなくなったら聞いて?と言っても、耳に入っちゃうかもしれないけど。」
「?」
大翔はきょとんとした愛梨の頭をポンポンとして、優しく微笑んだ。


愛梨と大翔は、ちょっとしんみりしてしまったまま、夜景を見ていた。


ぶるっ・・・愛梨は繋いでいない方の手で腕をさすった。
さむ・・・。動いてないから寒くなってきた・・・。

それを見た大翔は腰をかがめて愛梨の顔を覗き込んだ。
「そろそろ冷えてきたね。さて、帰る?」
「はい」

大翔に手を引かれた。愛梨はずっと手を繋いでいたことに気が付いた。
男性と手を繋いだことなんてない。
手を繋ぐことがこんなにホッコリとした気持ちになるなんて知らなかった。
不思議と手を振り払う事なんてしなかった。


大翔に車の助手席のドアを開けてもらいするりと座った。
ゆっくりと車が家に向かって動き出した。
車内の匂いや暖かさ、心地よい揺れに愛梨はうとうとしていた。

「愛梨?寝ちゃいそう?」
「う~?起きてるよ~??・・・う~?」
「寝てていいよ」
「う~・・・寝ないです。ん~~~起きてるってば~?」

大翔はうつらうつらしてる愛梨を見て笑った。

警戒心を解き始めた愛梨だけど、結婚は納得できない様子。
どうしたものかと考えながら、運転していた。

赤信号になり、ふと横を見ると、愛梨はくぅくぅと寝息を立てていた。
大翔は愛梨の頭をなでながらふっと笑い、愛おしそうな目で見つめた。

「愛梨は本当に可愛いね。表情豊かで明るい愛梨。こんな愛梨を・・・俺は放してやれないよ?」


直前に寝てしまった愛梨にはこの言葉は届かなかった。
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