エリートな先輩の愛情を独り占め!?
「タマか……悪いな今は可愛がってやれないんだ、忙しくて。おやつは納戸に入ってるから」
資料を眺めながら目も合わせずに答えると、タマがそっと机にパンを置いた。
「これ、よかったら食べてください。資料も汚さないし、腹持ちもよいですよ」
駅近に売っているほうれん草のベーグルだ。よくタマが食べていたから覚えている。しかし、残念ながら俺はあまりベーグルが好きではない。
「タマ、俺あんまりベーグル好きじゃ……」
「腹が減ってはなんとやらですよ! あ、でもすみませんこのシールはもらいますね。三十枚集めるとジャッキーとコラボしてるお皿がもらえるんですよー」
「お前ジャッキーチェン好きなの?」
「違いますそっちじゃないです!!」
タマの突っ込みを無視して、俺はとりあえずそのベーグルをもらった。一緒にコーヒーも淹れてもらったので、それは有難くすぐに飲んだ。タマにしては気が利くじゃないか。
「……なにか手伝えることがあったら、教えてくださいね」
「ああ、ありがとな。タマも品質管理部での仕事頑張れよ。結構人間関係難しいって聞くけど」
タマはなにか言いたげな表情をしていたけれど、大丈夫、と言って彼女の頭を軽く撫でて、俺はパソコンと向き合った。
「おかえり、遅かったねハチ君」
「遅かったって……たった二十分の違いだろ」
マンションに着くと、彼女である知佳が、ぴょこっとキッチンから顔を出した。
駅から歩いて十分のところにあるこのマンションには、今年の春に同棲前提で引っ越した。
同棲を言い始めたのはもちろん彼女からで、受け入れないと発狂しかねない状況だったので、ほぼ押される形で同棲がスタートした。