エリートな先輩の愛情を独り占め!?
「八谷先輩、タイプAからHまで一応完成しました」
東京の開発研究所は地下にある。最近は打ち合わせが多かったため、営業部にいることが多かったが、やはりこっちに来ると開発者として身が引き締まる。
白衣に帽子にマスク、白長靴といった完全防備の格好で、チームのうち新人以外の数人を集めて、吉崎さんの求める生チョコクリームを開発していた。
「チームの皆で官能検査をしてみよう。新入社員の指導で忙しいのに、ありがとな、遠藤」
「いえ、僕は言われた通りに作っただけですから……八谷先輩のご苦労には及びません」
「助かったよ、本当に。じゃあ俺は一度試食室に戻るから、後から来てくれ」
「わかりました、よろしくお願いします」
手袋を捨ててマスクと帽子を外し、開発室から出た途端一気に疲労感に襲われ、ため息が出た。とりあえずはできたものの、これからどうなるかわからない。並行してつくっている製品は三つ。スケジュールの進捗具合はいいとは言えないこの状況で、なにひとつ油断できることはない。
気づいたら今日も昼飯を食べずに午後の業務に入ってしまっていた。本当にストレスが溜まっていると、食欲って一切なくなるんだな、と毎回しみじみ思う。
その後は、手が空いているチームの数人を集めて八タイプの生チョコクリームの官能検査を行った。なにも食べていなかったせいで、チョコで一気に血糖値が上がり少し目眩がしたが、気力を振り絞って仕事に没頭した。
タマは今、品質管理部での仕事をメインとしているので、あまり仕事上で会うことはない。いつもは廊下ですれ違ったりはするのだが、今日はそれすらなかった。
あー、タマの食べてる姿を見て癒されたい。この疲れを取って欲しい。
『八谷君、どうにかできないのかね』。
……いや、今はそんなバカなこと考えてる場合じゃない。集中力しろ、俺。