エリートな先輩の愛情を独り占め!?
つい力任せに怒鳴って通話を切ってしまった。
知佳が求めているものは、変わらない愛……不変なのだ。でもそんなの不自然だし不可能に等しい。人の気持ちは変わるし、いつも同じ温度でなんていられない。でもそれを説明したところで、知佳は納得するような女じゃない。

「くそ……」
死ぬほど家に帰りたくない。あービジネスホテル泊まろうかな。ていうか今更腹が減って動けねえ。一階以上に行けば菓子パンの販売機あるけどここにはないんだよなー。あ、隣の遠藤のデスクにじゃがりこ置いてある。パクっていいかなこれ、明日金払えばいいだろ、うん。
「あ、そうだ」
遠藤のじゃがりこを手に取った瞬間、俺はあることを思い出した。丸くてもちもちで緑色のベーグルが頭に浮かんだのだ。それは、昨日タマからもらったまま、鞄の中に放置していたベーグルだ。
味がしなくて、ヘルシー思考な食品はあまり好きじゃない俺だけど、この時ばかりは空腹に耐えきれなかった。俺は袋を破いてベーグルを口に運んだ。口の中に優しい甘みが広がり、やっと頭の中に栄養が行き渡っていくような感覚に陥った。

「……うめー……」
あ、やべ、なんか今俺、誰かに優しい言葉かけてもらったら泣いちゃうかも。なんかベーグルを食べたらそんな気分になってしまった。

ああ、タマに会いたい。タマと話したい。タマと飯が食いたい。バカみたいに美味そうに食うあいつの顔が見たい。

『どうにかできないのかね』
『君は臨機応変さに欠ける』
『昔はそんなんじゃなかった!』
『昔はもっと優しかった!』

つもりに積もったストレスが、胸の中で膨張していく。息がてきない、苦しい。苦しい、なんだこれ。

ーーガラッ。
胸のあたりをギュッと鷲掴みして苦しさに耐えていると、突然薄暗い事務室の中に光が差しこんだ。

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