エリートな先輩の愛情を独り占め!?
タイミング
八谷先輩とキスをしてしまった。
どうしてこうなった?
なんでキスをしてきたの?
いくら自問をしても、その答えは出てこなかったので、八谷先輩はものすっごく疲れていて、目の前にいる人が彼女だと錯覚してしまったのだ、ということにした。
そういうことでいいですよね? 八谷先輩。
「お、おはようタマ……」
「あ、おはおはようござ、ございます」
「お、お前、か、噛みすぎだぞ」
「せせ先輩こそ」
下手くそか! と心の中で全力で突っ込んだ。八谷先輩と駅で鉢合わせないために少し早めに来たのに、八谷先輩も同じことを考えて早めに来てしまったので、駅で出会ってしまった。
会社までは結構歩く。なんとも気まずい空気が私たちの間を流れている。黙って先輩の横を歩いていると、八谷先輩が決心したように口を開いた。
「……タマ、昨日は本当にごめん。酔ってたわけでもないし、ふざけてしたわけでもない。魔が差したというかなんというか……でも、自分勝手で本当に申し訳ないけど、お前と気まずくはなりたくない」
「それは私もです……八谷先輩とは仲良くいたいです」
「仕事仲間だからとか関係なく、俺はお前に避けられたら困るよ」
あまりに真っ直ぐな瞳でそう言うので、驚いてなんて言葉を返したらいいのかわからなくなってしまった。
すると、いつの間にか会社の前まで辿り着いていて、八谷先輩はそれだけ告げると、じゃあまた、と言って先に中に入っていった。