エリートな先輩の愛情を独り占め!?
『月曜から二日間出張することになった』
土曜の朝起きると、八谷先輩からメッセージが届いていた。
急遽決まった出張らしく、大阪の本社から呼ばれたとのことで、八谷先輩も少し緊張しているようだった。
そんなこんなで、八谷先輩が東京にいないまま業務が始まった。キスの蟠りをまだ捨てきれずにいた私にとっては、申し訳ないけど好都合なことだった。
今、私と八谷先輩に必要なのは、時間なのだ。
このモヤモヤも時間が経てば、きっといつかなくなる。
「玉城(タマキ)さん、フィンチップ補充しておいてって言ったわよね、さっき」
「……すみません、今補充します」
マイクロピペットの先につけるチップは、確かさっき補充したばかりのはずだ。恐らく新人が補充後に使って、そのあと補充し忘れたのだろう。
しかし、そんなことを一々説明するのも面倒なので、私は上司の言う通りチップをすぐに補充した。背後で新人がなにか言いたげにしていたけれど、私はなにも言わなかった。
……入社当初から、上司の桜庭さんとはあまり反りが合わない。品質管理部のお局的な存在で、とにかく仕事が丁寧で細かい。噂によると、八谷先輩にアタックしていたとかなんとか聞いたことがあるので、由紀子には、タマにだけ当たりが強いのは完全に嫉妬だよ、と言われた。
「玉城さん、実験台の上は常に綺麗にしてって言ったでしょう。あなたのそういう雑なところがいつかミスを招く原因になるのよ」
「すみません、片付けます」