エリートな先輩の愛情を独り占め!?
実験台の上にある使用済みキムワイプはさっき桜庭さんが片付けそびれたものだ。でもそんなこと言えるわけないし、こんなことしょっちゅうある。
「鈴木さん、こんな雑な先輩になっちゃだめよ。いい?」
「は、はい……」
「そんな意識の低さで店頭用の商品開発なんていかれても困るわ。まあ声なんてかからないでしょうけど」
私のことはどう言ってもいいけど、そうやって新人を遠回しに怯えさせるのはよしてほしい。
……あー、なんだか胃がキリキリ痛んできた。八谷先輩とのことや、彼氏とのこと、桜庭さんからの圧力……全てがちょうどよく重なってしまった。私情を仕事に持ち込んではいけないとわかっているけれど、弱っている時にこうもチクチク言われると少し堪える。
「あ、あと倉庫の掃除も今日やっといちゃってよね。検査が終わったらよろしくね」
「桜庭さん、今回の検査って終わるのはどう見積もっても終業時間ギリギリじゃないでしょうか」
「じゃあ新人に手伝ってもらいなさい」
桜庭さんの言葉に、新人は明らかに苦い顔をした。新人の子に残業をさせるわけにはいかないし……でも今日は、竣介と外で飲みに行くことを約束してしまった。
約束を破って私を怒らせてしまったお詫びにと、竣介がお店を予約してくれたのだ。
もし間に合わなかったらどうしよう……竣介は約束を破ることを許さない人だ。中々許してはくれないだろう。
「桜庭さん、明日朝早くきてやるのではダメでしょうか」
「さ、ちゃっちゃと仕事を再開しましょう。思わぬ無駄な時間を使っちゃったわ」
桜庭さんは完全に私をスルーして話を進めた。
冗談じゃない……なんで私ばかり……腑は煮えくり返っていたが、私は仕方なく業務を再開した。

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