エリートな先輩の愛情を独り占め!?
それがバレないように、タマへの揺らぎを消し去るように、俺は知佳にキスをした。


＊ ＊ ＊

「……私、いじめられてるの、職場で。私の声って、人を不快にさせるんだって。男に媚び売ってるように聞こえるらしくて……」
笑っちゃうよね、と知佳は力なく微笑んだが、俺の手を握るその手は震えていた。
その告白をされたのは、お互いが社会人になって一ヶ月目の時だった。

「いじめられてるって……無視とかされてるのか？ どの程度？」
「いや、とくに無視とかはされてないんだけど……話しかけても絡まれたくないって思われてるオーラを感じるっていうか……」
「そっか……女の世界は大変なんだな。証拠に残るような嫌がらせまでされたら全部取っておけよ、いざという時のために」

それはきっと、知佳が求めている言葉ではなかった。
しかし俺も社会人になって間もなく、余裕も時間もなかったから、知佳の気持ちを丁寧に汲み取ってあげることができなかった。
きっと知佳はあの時、俺は知佳の声好きだよ、と、ひとこと言って欲しかっただけなんだと思う。
媚びてるなんて思わない、そんなこと言うやつひどいな、って。一緒になって悪口を言ってやるべきだったんだと思う。
いつしか俺は、仕事の時間を優先して、優先順位はどんな時も仕事が一番の人間になっていた。先輩との付き合いで中々家に帰らなくなる日が続いて、気づいたらある日突然知佳が壊れた。

「私をもっと必要としてよ、私のことちゃんと愛してよ!!」

目を真っ赤にさせて、家中の食器を割って泣き叫ぶ知佳を見て、俺は初めて自分がしてきたことを深く反省した。
もちろん怖かった。この時初めて一緒にいることを不安に思った。

だけど、そうさせてしまった原因は彼女を放置した俺にもあるから。

……後から聞いた話によると、職場でのいじめは想像以上に酷いものだった。ありもしない噂を流されたり、制服を隠されたり、仕事のミスを押し付けられたり……。
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