エリートな先輩の愛情を独り占め!?
彼女はなん度もそのことを俺に相談しようとしていた。けれど俺は仕事しか見てていなくて、それを聞いてやれなかった。気付いてやれなかった。
彼女のサインをすべて見落としてしまったせいで、彼女の中の依存性が恐ろしいほどに育ってしまったのだ。

そんな彼女を、無責任に見放すことなんてできなかった。
これが愛なのかそうじゃないのか、という判断は、その時の俺には重要じゃなかった。ここで見放すことは罪だと感じていたから、愛なんてそんなことはどうでもよかったのだ。


「吉崎さんから、次もぜひ頼みたいと連絡があったよ」
出張から帰ると、上機嫌な様子の志賀さんにラウンジで話しかけられた。
「……大阪の本社に呼ばれたらしいね。店頭用の商品企画に関われるのも近いんじゃないか?」
「……どうでしょうか、人気の部署ですし……これから色々話し合いで決めるらしいのでまだわかりません」
「でも君がいなくなったら惜しいなあ……営業マンの素質もある開発は少ないから」
自分がこの前言ったことを覚えていないのだろうか? ……随分都合のいい記憶力だ。
俺は志賀さんの話を適当に流し聞きながら、営業マンのような笑顔をつくった。
「君ならいけるさ。次の仕事も頼むよ、じゃあ」
志賀さんはにこやかに微笑んで、軽く手を振ってラウンジを出ていった。
大阪の本社に呼ばれたのは、正直驚いた。吉崎さんとの仕事ぶりを聞いて、開発で苦労したことを聞かせてくれ、とのことだった。
商品開発の希望はあるのかね、と問われ、俺はハイと即答した。元々ものづくりが好きで、それを軸として就活をしていた。周りの院生は企業に就職せず研究を続ける人が多かったが、俺は食品会社の開発一択で受けていた。
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