エリートな先輩の愛情を独り占め!?
自覚してしまった
『あのキスで、罪悪感とぐちゃぐちゃになりながら、お前がもっと俺のこと意識すればいいのにって、思ったよ』
八谷先輩の苦しそうな顔が頭から離れない。八谷先輩のことを意識しすぎてしまって、この一ヶ月ろくに会話をすることができなかった。
八谷先輩は頻繁に大阪へ出張するようになり、多忙過ぎて会えなかったというのもあるけれど、こんなに会話をしないことは初めてだ。
八谷先輩、あれは、一体どういう意味だったのですか。
私の小さい頭じゃとても抱え切れません。
「ここの舌平目のムニエルが美味いんだよ、ワインとの相性もよくて」
渋谷にあるビストロで、竣介と久々に外食をした。いつも疲れてるから家で食べたいという彼だけど、今日は気分が乗ったみたいだ。
珍しくあっちから今日は外で食べようと言われ、私は少し驚きながらもはりきってオシャレをして待ち合わせ場所に向かった。
辿り着いたビストロは、前に一度付き合いたての頃に来たことのある人気店で、運よく予約なしでも入れた。喫茶店のような落ち着いた店内で出される料理の数々はどれも絶品で、またここに来られたことを素直に嬉しく思った。
上機嫌でムニエルを口に運んでいると、竣介がそんな私を見てクスッと笑った。
「理乃は本当美味しそうに食べるよな」
「え、だって本当に美味しいんだもん……」
「食べさせ甲斐あるよ」
不謹慎にも、その言葉を聞いた時、私は八谷先輩のことを思い出してしまった。八谷先輩はいつも私が食べる姿を見て可愛いと言ってくれた。
そういえばもう、随分八谷先輩とご飯に行ってないな……。