エリートな先輩の愛情を独り占め!?
「あ、そうだ腕時計……」
机に置きっ放しにしてしまったはずの腕時計だが、テーブルではなくなぜかテレビ台の下にあるリモコン入れに入っていた。
「なんでこんなとこに……」
単純に疑問に思ったが、その時竣介のスマホがメッセージを受信して震えた。いつもはメッセージ内容も画面に表示されるようになっていたが、非表示に変わっていた。
女の勘、というやつだろうか。
それを見た瞬間、嫌な胸騒ぎが全身を襲ったので、私は自分の小物や美容品がある位置を確かめた。
私の私物がなぜか全てカラーボックスの中に隠されていた。代わりに、見たことのない女物の口紅が、テレビ台の下に転がっていた。
これは……黒だ。
私は案外冷静にそのことを受け止めた。
そうか、竣介が慌てていた理由はこれなんだ。そう考えるとあの挙動不審な態度も納得がいく。
竣介は意外と単純だから、スマホのロックは自分の誕生日であることを私は知っている。解除しようとしたけれど、開くまでもないと感じて、やめた。
その代わり、荷物をまとめて、腕時計を掴んで、竣介にバレないように家を出た。
……人って、本当に傷つくと、涙もでないものなんだな。心が冷え切って、世界が突然暗くなって、とんでもなく巨大な孤独感に襲われる。
怪しいと感じることは、正直今までもなん度かあった。けれど、こんなにもハッキリとした証拠を突きつけられるとさすがに言葉が出てこない。
なんだか家に帰りたくなくて、降りたこともない駅の川沿いをフラフラと歩いた。川面を冷たい夜風が撫でて、魚の鱗のような細かな波が立つ。