エリートな先輩の愛情を独り占め!?
「……タマ、聞こえてる?」
「すみません、聞こえています」
「……なんか声震えてね?」
「震えてません」
「……震えてるだろ」
「震えてませんっ」

泣いてるとばれたことが恥ずかしくて、私は強い口調で返してしまった。すぐにハッとして気を取り直したが、スマホ越しに気まずい空気を感じ取って、私はなにも言葉が出てこなくなってしまった。

「……今どこ?」
「え……、美広川って書いてあります」
「……はは、なんでそんなとこいんだよ。放浪癖かよ」
突拍子もない質問に驚き素直に答えてしまったが、八谷先輩は気まずい空気を払拭するように笑ってくれたので、少しほっとした。胸を撫で下ろしだ私に、八谷先輩はもっと私を驚かせる発言をした。
「……川を右手に見ながら、真っ直ぐ進むと東洋ビルが見えるから、そこまで来たら教えて。迎えに行くよ」
「……え? 本気ですか」
「美しいに広いで美広川。……俺のマンションからよく見える」

スマホを切って十五分後、先輩は本当に私の前に現れてみせた。
冗談だと思っていたけど、東洋ビルの角に立っている、マフラーを巻いた八谷先輩を見つけた瞬間、嘘じゃないとやっとわかった。
八谷先輩は軽やかな足取りで私がいる土手まで登り、私と同じ高さのところまでやってきた。

「……よ、元気か」
「な、なんで……先輩、広岡に住んでるはずじゃ……」
「今年の春引っ越したんだよ。言ってなかったっけ」

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