エリートな先輩の愛情を独り占め!?
八谷先輩のシャープで繊細な顔立ちに、黒のマフラーがよく似合う。いつもより少し気が抜けている柔らかい雰囲気がなんだか可愛くて、なんだか愛おしくて、胸がぎゅっと掴まれてしまった。
心を忙しくしていると、八谷先輩は私の顔をじっと見つめてきた。口元までマフラーで隠れているから、八谷先輩の切れ長の瞳がより映える。
「……俺の質問にも答えてよ」
「質問ですか……?」
「元気かって、さっき聞いた」
「げ、元気です」
悟られないようにすぐ答えたが、八谷先輩は私の顔をじっと見つめたままなにも話さない。私は目を逸らして地面を見つめた。
すると、八谷先輩は私の肩に手を置いてから、残念そうに呟いた。
「……あーあ、ついに頼ってくれなくなったか」
「そ、そういうわけではっ……」
「……ん?」
思わず顔を上げると、そこには泣きたくなるほど優しい笑顔を私に向けてくれる八谷先輩がいた。
「そういう……わけでは……」
その笑顔を見たら、なんだかもう、やるせない気持ちとか、虚しさとか悲しさとか怒りとか、全てがどっと溢れ出してしまった。
私は、手の甲で顔を隠して、震えた声を絞り出す。
「元気じゃ……ないですっ……、ちっとも元気じゃないっ……」
言葉にしたら、その瞬間涙腺が壊れて涙が止まらなくなった。
「彼氏に浮気されましたっ……」
こんなこと、異性に相談するなんて。ましてや職場の先輩に相談するなんて。私はズルい女だ。
私だって八谷先輩とキスをしたくせに。心のどこかで八谷先輩のことをいいと思っていたから避けられなかったくせに。
それなのに、私は今彼氏に浮気されたことに傷ついて、涙を流して八谷先輩に縋ってる。
こんな汚くてズルい自分、大嫌いだ。
「……手、震えてる」
暫し黙っていた八谷先輩が、冷え切った私の手を取って、強く握った。
「……八谷先輩、今優しくされたらさすがに甘えてしまいます……っ、先輩の彼女に悪いです、離してください」
「……今日はいない。この土日は実家に帰ってるから」
「そういう問題じゃないです!」