エリートな先輩の愛情を独り占め!?

これは、いい機会かもしれない。そう思った私は、八谷先輩に今日少し電話ができないか、とメッセージを送った。するとすぐに返信がきた。

『仕事終わりに、駅近の赤い看板の喫茶店で待ってる』

忙しいから電話でいいと言っても、八谷先輩は待ってるしか言わなかった。
そして今私は、赤い看板の老舗喫茶店で、八谷先輩と向かい合っている。
「ここ来たの久々だなー」
「ランチのナポリタン、麺がモチモチで美味しいんですよね」
「そうそう、確かお前が始めて研修した時だよな」
年季の入った木製のテーブルに、クッション部分に深みのある赤色の布がきちっと張られたボックス型の椅子。
まるで列車の中にいるような気分になるこの喫茶店は、実はひとりでもなん回か来たことがある。
窓の格子も木でできていて、窓際にあるメニュー表は、縦長の厚紙一枚というシンプルなつくりだ。
八谷先輩は深煎りコーヒーを頼んだから、私も同じものを頼んだ。八谷先輩が頼むものはなんでも美味しいから。
「……八谷先輩、本社に行けることになったんですね。栄転おめでとうございます」
真っ黒なコーヒーが届いて、それをゆっくり飲んでから、私は口火を切った。
八谷先輩は、コーヒーを見つめながら静かにうんと頷いた。
「八谷先輩、ずっと夢でしたもんね。菓子の商品開発に行くこと……」
「言い出せなくてごめん。本当は、一番にタマに知らせたかった」
「……その言葉だけで、もう私は十分です」
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