エリートな先輩の愛情を独り占め!?
本心からそう言うと、八谷先輩はなにか言いかけて、また押し黙った。
先輩がなにも言えなくなってしまったから、私はまた口を開いた。
「多分今が、私と八谷先輩が進んでいい距離のギリギリなんだと思います。これ以上はないし、後はもう、最初の距離にゆっくり戻るだけです。先輩はこれ以上私に近づけないし、私もこれ以上先輩に近づきません」
「……タマは、どう思ってるんだ」
「……私は、八谷先輩と一緒にランチをしてる時間が、あの関係が一番幸せでした」
……まるで、八谷先輩が悪いみたいな言い方だ。一番よい関係を崩したのはあなただ、と言っているようなものだ。でももうこれくらいハッキリさせないと、どんどん深みにハマってしまいそうだったから。
……八谷先輩のスマホがテーブルの上で震えている。彼女からのメッセージが、どんどん画面に溜まっていくのを見つめていると、八谷先輩はスマホをすっと鞄にしまって、私のことをじっと見つめた。
「……タマは、いい後輩だよ。話しやすいし、聞き上手だし、いつも笑顔で素直だ。人が嫌がる仕事も文句言わずに引き受けるし、理不尽なこともちゃんと我慢できる忍耐力がある。意見を発信する力をもっと磨けば、商品開発だってまったく夢じゃない。……タマは、頑張れる子だって、俺は知ってる」
思ってもない言葉に、今度は私がびっくりして言葉が出てこなくなってしまった。
「いつからかハッキリは言えないけど、タマのこと、ひとりの女性として可愛いと思ってたよ。自分にもタマにも恋人がいるっていう事実が、ストッパーになっていただけで、気づかないふりをするどころか、この気持ちの存在さえわかっていなかった……タマにキスをするまでは」
「……八谷先輩、私は……」
「でも、ここまでが、タマの言う通り俺たちが進んでもいいギリギリの距離なんだと思う。……でも俺は、タマが大切だよ。大切だから、タマが〝一番いい関係だった〟と思う関係に戻ることが、最後に俺が、先輩としてタマのために頑張るべきことなんだと思うよ」
「八谷先輩……やめてください、もうそんな、会えなくなるみたいな言い方、嫌です」
「大丈夫、いつでも会えるよ。海外に行くわけじゃないんだからさ」
八谷先輩は、さっき私が言った願いを叶えようとしてくれている。

< 56 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop