エリートな先輩の愛情を独り占め!?
「そろそろ行こう。だいぶ冷え込んでるし」
私の頭をぽんぽんと撫でてから、八谷先輩は立ち上がった。私もゆっくり立ち上がって先輩の後をついていき、冷え切った路地に出た。
今、なにか言ったら変わるかな。わからない。困らせるだけかも。でももう少し先輩と一緒にいたい。
先輩の背中を見ていたら、そんな思いがふつふつとわき上がって、私は口を開いた。
「ハチっ!」
しかし、私の言葉を遮るように、見知らぬ女性が八谷先輩を呼んだ。
……その女性は、今にも怒り狂いそうな表情で、私のことを睨みつけた。
「……誰、その女」
「なんでこんなとこまで来てるんだ、知佳」
八谷先輩はもうこのことに慣れていたのか、驚きもせずに、呆れたように言い放った。
知佳さん。なん度もスマホの画面に表示されていた名前だから覚えている。……八谷先輩の彼女だ。
「人の彼氏に手ぇ出すなんて本当サイテー! 許さないから!」
人の怒りをこんなに直球でぶつけられたことは初めてだったので、私は思わずビクッとしてしまった。
もともと大きな瞳が吊り上っていて、まるで瞳に炎が宿ってるかのようだ。
八谷先輩は、知佳さんの元へ行って、そっと宥めるように肩を抱いた。傷つく権利なんてないくせに、私は一丁前に嫉妬していた。
八谷先輩は彼女のものなんだと、改めて実感した。
「……知佳、帰ろう。全部家でちゃんと話すから」
「なんでよっ、大阪行きだって絶対許さないんだから! なんで変わっちゃうの、ひとりでなんでもかんでも決めちゃうの、このままでいいじゃない!」
「大阪のことは随分前から言ってたはずだろ。君だってそのことを応援してくれていたはずだ」
「ずっとこのまま、東京で二人で暮らしてさっ、十分幸せじゃない! 仕事がそんなに大事!? 仕事仕事言う割りにはこんな風にちゃっかり浮気なんかしてるじゃない! 結局その程度の夢なら諦めてここにいてよ! 私を一番に優先してよ!」