エリートな先輩の愛情を独り占め!?
可愛くて愛しい人
三月になって、八谷先輩は本当に大阪に異動した。
開発部にある八谷先輩のデスクは、綺麗さっぱり空になっていて、殺風景なその光景を見た時、本当にもう会えなくなるのではないかと思ってしまった。
そんなことはないのだろうけど、でも、なんだかそんな予感がしたのだ。
八谷先輩の送別会は盛大に行われて、私も離れた席で見送った。普段飲み会には参加しない上司も来ていて、八谷先輩の信頼の厚さを改めて知ることができた。……先輩は、本当にすごい人だったのだ、と。そんな人に気に入ってもらえたということが、どれだけ光栄だったのか、と。
「タマちゃん、一緒にご飯食べよ!」
八谷先輩がいなくなってから、昼ご飯は由紀子と食べることが恒例になったし、八谷先輩ファンからいびられることもなくなった。
「うん、食べよ食べよ〜!」
「今日美味しいラーメン食べたい気分なんだけど、どっか知らない?」
「あ、それなら八谷先輩に教えてもらった美味しいお店知ってるよ」
八谷先輩が一番好きだった、錆びれた雰囲気の中華料理店にやってきた。八谷先輩とランチをした日々は、こうして時々役に立ったりしている。
店は相変わらずこじんまりしていて、メニューは少ないし、丸椅子はガタガタと音を立てるし不安定だ。
「なにこの餃子! 皮がモチモチで美味しい~!」
「でしょう、でしょう!? 八谷先輩はいっつも辣油を多めにいれて食べるのが好きでね」
「へえ~、確かに美味しい! こうやってたまには思い切り食べるのもいいね」
「そうそう、八谷先輩もいっつもそう言ってどかどか頼んでて……」
八谷先輩、というワードを連発してしまっていることに気づいて、私は言葉を止めた。由紀子は眉をハの字にして、困ったように笑いながら、私の空になったグラスに水を注いでくれた。