ツケマお化けに恋して
そう…あの頃の稔は野心なんて持っていなかった。

どちらかと言えば良い物を作りたいと言う志は人一倍あったと思う。

映画を観に行こうと二人で街を歩いている時も最近のファッションの傾向はと言ってショップ巡りに変更になってしまった事も一度や二度じゃない。

付き合い始めて一年が過ぎた頃…

私はまだ実家暮らしで会社からも遠く一人暮らしをしていた稔のアパートの部屋によく泊まりに行っていた。

稔は家に帰ってからも仕事の事が頭から離れないらしくよく仕事の話をしていた。

稔のベットで愛しあった後も私を腕枕して『今度こんな企画どう?』『最近の色使いってさぁ』と話してくれた。

私達は恋人だけど職場では仲間でありライバルでもある。

そんな私に新しく考えている企画を楽しそうに話してくれる稔が大好きだった。

稔に信用されてる愛されてると実感できる時間でもあった。

毎月行われる企画会議に稔の考えた企画を先輩に取られてしまい稔は企画会議で何も出せなかった時も…

『酷いよ!稔の企画だったのに!稔、何とか言ってやんなよ!稔が言わないなら私が言う!』

私は稔の企画を取った先輩を殴りにでも行く剣幕で怒っている私の腕を掴んで稔はにっこり笑った。


『美貴野、有難う。美貴野が分かっててくれてるから良いよ』


『どうして?悔しくないの?』


『誰の企画だろうと良い物が作れるなら良いじゃん』


そう言って笑ってたのに……

そんな稔が財産目当てで結婚するなんてありえない。



「ちょっと美貴野ピッチ早い!あんたうちに来る前にも飲んて来たんでしょ?もう止めなさい!」


ミチルさんにグラスを取られてしまった。


「辰次郎煩い!もう少し飲ませてよ!クルリンリンちゃん水割り作って」


「えーママ……どぅするのクルリンリン困っちゃう?」


「もーいい自分で作る!はーい美貴野、水割り作りまーす!」


「キャーこぼしてる!」


クリリンリンさんがおしぼりで零れたウイスキーを拭いてくれる。


「キャーだって?!クルリンリンちゃん可愛いー」


「美貴野!!」


辰次郎さんの叱咤が聞こえた気がした…



< 25 / 103 >

この作品をシェア

pagetop