ツケマお化けに恋して
「で、妊娠の事あのオカマに話したの?」

「話してない……」

「なんで?」

「辰次郎さんは男の人が好きなんだし、妊婦の事は私が迫ってこうなった事なの。それに去年の暮れに辰次郎さんの所に男の人が訪ねて来て辰次郎さんに『帰ってきて欲しい』って頼んでいたからひょっとしたら辰次郎さん戻るかもしれないし…そんな時に私が妊娠したなんて言ったら辰次郎さん困らせる事になるでしょう?だから言わない。宏海も、もし辰次郎さんに会っても言わないでね!」

訪ねて来た人の事は言えないけど…
たぶん辰次郎さんはあの男の人を今でも愛していると思う。
私達とは違う愛だけど…

そぅ…いろんな愛がある

「でも、お腹の子どうするの?」

「産むつもり」

病院から帰って来てずっと考えていた。
辰次郎さんに貰った煮物を食べながら…やっぱりどんな辰次郎さんでも好きだって…だから好きな人の子供を産みたい。

「シングルマザーって事?」

「うん…私も34歳だし、これを逃したら私には子供をもつ機会は無いかもしれないから。私のお母さんもシングルマザーだったし親子でシングルマザーでも良いかなって思って」と笑って見せる。

「他の人ならシングルマザーでも良いけど、あんたは無理でしょう?仕事人間で料理も出来ないし、どうやって子供を育てるの?」

「今は遅くまで見てくれる保育園も有るし、料理だって頑張れば出来ると思う」

穏やかに話していた宏海はだんだん声を荒げて話しだす。

「無理だね!自分の食生活もまともに出来ない人が妊婦なんて出来るわけ無いでしょ!!」

「妊婦なんて出来ないって、私もう妊婦だもん!!」

「お腹の子が育たないって事!!そんな事も分かんないの?頭冷やしてよく考えな!!!」

「………」

「あのマンションには居られないでしょ?また実家から仕事通うの?帰る時間が遅くなる事が多いからって会社の近くに引っ越して来たんでしょ?それなのに大きなお腹を抱えて1時間以上もかけて通勤出来ないでしょう?」

「………」

「ったく…暫くうちに来な!マンションも引っ越さないとダメでしょ?あのオカマにバレるだろうし、安定期に入ったらゆっくり部屋探せば良いよ!」

「宏海…ありがとう。でも、井上君が居るんでしょ?」

「彼よりあんたの方が付き合い長いんだから気にしなくても良い。彼とは外で会えばいいし」

その時…

「うちに来なさい」



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