ライ・ラック・ラブ

正さんは、屋敷での同居を嫌がった。
その気持ちは私もよく分かるし、父も理解してくれたので、結婚を機に、私は屋敷を出ることになった。

さらに、私は長年屋敷で料理を作ってくれている、いわば加納家の料理長的存在の郁代さんから、料理を教えてもらっているのだけれど…。
どうも私には料理の才能がないらしく、郁代さんの言う通りに、又は郁代さんと一緒に作ったものでさえ、なぜか美味しく仕上がらない。

あの温厚で、心優しい佐久間さんにまで、「微妙な味です」と…つまり、遠回しに「美味しくない」と言われてしまったくらいだ。

「あ……そぅ…」
「人には得意な分野と不得意な分野がありますから。春花お嬢様の場合は、お料理を作る事より、お父様と同じ、会社を経営する才能の方に恵まれたのではないかと私は思いますよ」と、郁代さんから励まされた。