ライ・ラック・ラブ
この人は、平川さんにもこんな風に話しているのかしらと思ってしまうのは、この現実から逃れたい、ズタズタに傷ついた心を、これ以上この人に傷つけられないように、自己防衛しているからなのかしら…。

「おいおい。今更恨めしい顔して俺を見るなよ。ま、確かに、一緒に暮らす以上、結婚生活に愛、って言うより、互いに好意程度の気持ちを持ってることは、必要だとは思う。だがな、愛のない結婚生活が長続きしないと言うなら、愛だけあっても結婚生活は長続きしないんだよ。稼ぐ力とか経済力、もっと言えば贅沢に遊び暮らしていけるための金がなきゃ、“結婚生活”自体、できないだろーが。おまえも静江も、そこんとこの現実、ちゃんと見ろよ」

そう言って、私に触れようとした正さんの手を、私はサッと避けた。
今までなら、彼に触れてもらうことが喜びにつながっていたはずなのに…本能的に、自然に、私は彼を避けていた。
もう彼に触れられること自体が耐えられないと、私の体と心が悲鳴を上げているから。

「触らないで!」
「おい…」
「二度と、私に触らないで」

私の怒りの形相から、本気で怒っているという気迫のようなものが、正さんにも伝わったのだろう。
彼は手をおろすと、私より先に目をそらした。

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