好きやった。


早く、あの二人のそばから離れたい。

その一心で気がはやり、つま先を雑に床に打ちつけるけど、急ごうとすればするほどスニーカーのかかとを踏んづけてしまう。


「美亜、これ使えよ」

「えっ、これ将太(ショウタ)くんのマフラーやん。私、マフラーしとるから大丈夫やよ?」

「そんなん言うけど、美亜寒がりやんか。風邪引くとあかんし、俺のマフラーも巻いとけって。今日は特に寒いし」

「でも、それやと将太くんが……」

「ええのええの、俺は暑がりやから!」

「……ありがとう、将太くん」


ウチが苦労しながら靴を履き替えている間も、二人の会話は続いていた。

意識を完全に二人から逸らせられたら、それほど嬉しいことはない。だけどやっぱりウチには、そんな類いの特殊能力はないようだ。

むしろ意識は、アイツとあの子の言葉をはっきりととらえている。


……てか、いつまでも同じ場所で喋っとらんと、さっさと帰ればええやんか。

容赦なしに風が吹いとるこんな場所で立ち止まっとる方が、よっぽど風邪引くっつうの。

おまけにそこにいられると、扉を出たら嫌でもその姿を見なくちゃいけなくなる。

やから、マジで早く帰ってほしいんやけどなあ。


でもそんな切実な願いが叶うわけもなく、靴を履き替え終えても二人の気配はそこから一歩も動いていなかった。

ため息をつきながらガラス扉を開ける。

途端、びゅうっと風が吹きつけてきた。冷たいそれに身体が包まれた瞬間、優れていなかった気分がさらに下がっていく。

……ほんと、勘弁してほしい。


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