好きやった。
アイツとあの子のツーショットが視界に入らないように気をつけながら、さっさと立ち去ろうと踏み出した。
……だけど。
「あ、井ノ原(イノハラ)。また明日なー!」
横を通りすぎようとした刹那、アイツがウチに挨拶を投げかけてきた。
いつも、こうだ。
ウチは、あの子と一緒にいるときのアイツと極力関わりたくないのに。アイツは、どんなときでもウチと平然と関わってくる。
それはウチが、アイツの特別だからじゃない。
特別でもなんでもない、ただの友達だから……だから、何も意識しないで挨拶だってできるんだ。
ウチなんて……嫌なほど意識してるっていうのに。
無視することも、素っ気なく挨拶を返すこともできない。
だから途中で止まって、わざわざ振り返る。
「……またね!」
心の中でもやもやとしている感情なんて感じさせないように、精一杯笑ってみせた。
「おー、またな!」
軽く手を挙げて再度挨拶を繰り返したアイツも、笑っていた。
やわらかに目が細められるその笑顔が、ウチは好きだ。
それを見られただけで少し報われた気持ちになるのだから、ウチもなかなか単純やなって思う。
挨拶を済ませるとさっさと二人に背を向けて、体育館正面の階段を下りた。
アイツの隣にいたあの子のことは、最後までまともに見れなかった。
「おまたせー」
階段の下で待ってくれていた、同じバスケ部に所属している友達の留美(ルミ)のもとに駆け寄る。
だけど留美の視線はウチではなく、階段の上に向けられていた。
ああ、たぶん。
さっきの見てたんやろうなあ。