好きやった。
「……アイツ、残酷なぐらい鈍感やよな。亮子(リョウコ)の気持ちも知らずに、あんな平然としとれるんやから」
恨めしい目でウチの背後を見ながら、留美は冷たく言い放つ。
ウチの気持ちを知っているからこその言葉だった。それに曖昧な苦笑をこぼしてから足を動かす。
「しゃあないよ。月島(ツキシマ)がウチの気持ちに気づくわけないもん。アイツにとってウチは、完全に恋愛対象外の友達なんやから」
ずっと、そうだった。
出会って間もない頃からずっと、ウチはアイツの友達。
それ以上の存在として見てもらえる可能性なんて、最初からこれっぽっちもなかったに違いない。
だからこそ、アイツは――。
「留美、アイツのことなんてええから帰ろに。ウチ、お腹空いたー」
突っ立って月島のことを睨んでいる留美の腕を引いて、家路へと足を進める。
やっとのことで歩き出した留美が心配そうに顔を覗き込んできたけど、平気なフリをして笑ってみせた。
平気、平気やよウチは。
自分に言い聞かせるように心の中で唱えて深呼吸をする。
肺いっぱいに吸い込んだ空気は冷たくて、身体の芯がすっと冷えたような気がした。
――14歳、冬。
ずっと好きだったアイツに、彼女ができた。
ウチがずっとほしかったアイツの心は、あの子のものになってしまった。もう、手に入らない。
行き場を見失って迷子のウチの心が、震えて泣いていた。