好きやった。


「俺さ、もっと井ノ原の気持ち汲み取れるようになりたい。でもそういうの苦手やからさ……井ノ原も、もっと俺に言いたいこと口に出して伝えてくれよ」

「えっ……?」


思ってもみなかったことを言われて間抜けな声が出る。

戸惑っていると腕を引かれた。


「あっ……」


また、月島の腕に閉じ込められてしまった。

ウチがいていい場所じゃないのに、どうしても抜け出せない。やわらかく身体を包み込む月島のぬくもりに甘えてしまいたくなる。


「思ってること、全部言ってええから」

「え……えっ?」

「昨日いっぱい言ってくれたことが、井ノ原の本音やろ? あれ、もっと言ってくれ。今まで、井ノ原にも言いたいこと我慢させてたよな。そのくせなんにも気づかんし、苦しませてたよな」

「……」

「でももう、遠慮とかいらんから。全部、本音で話そうや。俺は……ちゃんと聞くよ。何聞いたって、井ノ原と友達でおりたい気持ちは変わらんから」


とんとんっと、あやすように背中を優しく叩かれた。

おかげで涙がじわりと視界を滲ませてきたけど、そっと瞼を閉じてこぼれないようにする。


「……ちゃんと、心の底からわかりあえる友達でおろうに。そうなりたいっていうのが……俺の今の気持ちや」


その言葉を聞いて、月島の肩に顔を埋めながら月島のブレザーの腰の辺りを指先で握った。

今だけ……。

これで最後にするから、この瞬間だけは月島の優しい心をちょうだい。


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