好きやった。


――キキッー! キキー、ウキーッ!


「ははっ、ほんとギャップありすぎる」


唐突に聞くとなかなかの破壊力がある。

見た目は笑っているのに中身は怒っているとか……。

気持ちを隠して笑っているウチに、どことなく似ているような気がした。


「……ふはっ、ほんま、おもろい、なあ……うぅっ」


笑った拍子に熱い何かが頬に触れた気がしたけど、それを無視してぬいぐるみを額に当てる。

さっきまでアイツが持ってたからかな。

アイツがいつも使っている制汗剤のレモンの香りが、ふわっとぬいぐるみから漂ってきた。

アイツに抱き締められたときにもしていた香りで、急に切なさに見舞われる。

目からぽろぽろと転がった滴が顎に伝っていった。


「……くっ、好きや、った……」


何度伝えたとしても、物足りない想い。

アイツへの気持ちはそれぐらい膨らんでいた。

でももう、伝えることも叶わない。


「好きやった……好きやった……」


だから今だけ、この想いを涙と一緒に吐き出してもええかな?

全部出して……ちゃんと新しい月島の友達の井ノ原に変わったら、そのときはちゃんと笑ってみせるから。

月島が笑っててほしいって言ってくれたんやもん。

笑ってみせるよ、心から。


「……明日は、朝練行こう……」


涙をぐっと腕で拭って誓いを立てる。


明日のウチは、もう笑えとるのかな。まだ、下手くそな笑顔かもしれやんね。

でも明日の月島ならきっと、そんなウチの気持ちにも気づいてくれるだろう。笑って出迎えてくれるだろう。


明日のウチらは、どんな言葉を交わすんかな。どんな話で盛り上がるんかな。

きっと今まで以上に楽しい毎日があると信じたい。

ウチらの本当の意味での友達として過ごす日々は、まだ始まったばかりだから。


バイバイ、好きやったアイツ。

これからもよろしく、大事な友達。




【end】


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